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低血圧最近のトピックス

起立性調節障害(OD)ガイドライン  初版作成の背景と改訂版のポイント


前回のトピックスでお知らせしておりましたように、2015年6月、日本小児心身医学会が起立性調節障害(OD)ガイドラインを改訂しました。この機会に、ODガイドライン初版が作成された背景、および新しい改訂版のポイントについて、田中英高先生にお話いただきます。


■起立性調節障害を含む小児心身医学ガイドライン初版作成の背景

前回、日本小児心身医学会によるODガイドラインの発表と並行して当サイトのアクセス件数が増えていると記載しました。そこでODガイドライン作成の経緯について簡単に述べます。

日本小児心身医学会は、すべての小児科医は心身医学を修め実践すべき時代が来ると考え、日本小児科学会の分科会として昭和57年に創設されました。わが国で唯一、身体、心理、社会的視点を含め、総合的全人的に子どもの病気や障害を診ることを研究・実践する学術団体として、研究だけではく、一般小児科医向けの研修会など27年間、啓発活動を続けてきました。

2000年から新規事業として、多くの小児科医が子どもの心の診療に参画しやすいようなハード面、ソフト面での開発を行いましたが、その過程において、学会として小児心身症の概念を一度整理し、診断・治療を見直し、一般診療や予防に役立てたいという機運が高まってきました。そこで、研修委員会(現在の研究委員会と研修委員会の前身、当時委員長は田中英高)が心身症ガイドライン(GL)作成を担当しました。その後数年間にわたり、他施設共同研究を進め、議論をくり返し、2006年、最初に起立性調節障害ガイドラインを発表しました。

その後順次、不登校診療、摂食障害、くり返す子どもの痛み(頭痛、腹痛)に関するガイドラインを発表しました。同学会会員であれば、会員専用ページからダウンロードできるようになっています。2009年6月、これらを一冊にまとめて『小児心身医学会ガイドライン集:一般小児科医が日常診療に活かす4つのガイドライン』を南江堂から発売しました。ガイドライン集は全国の小児科医をはじめ多くの医療関係者、教育関係者に読まれています。

とくにODについては、過去に決定的な診断方法がなかったので、ODが身体の病気なのか、心の問題なのか、医師によって考えが異なり治療法もマチマチでした。しかし、ガイドラインの登場によってODの疾患概念が確立し、「ストレスが関与する身体疾患であるが身体的治療を優先して行う」という診療方針が明確に示されました。これはガイドラインの大きな成果であり、これまでの医学的混乱に終止符を打つことになりした。その結果、ODの子どもと保護者が医療機関によってまったく異なる診療を受けるという、これまでの好ましくない状況が改善されることになりました。

その後、臨床医を対象にガイドラインの使用後アンケート調査を実施したところ、不登校状態に陥っている難治性ODに対するより専門的な診療指針への要望が多くみられたことから、ガイドライン委員会では『厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)平成20-22年度 分担研究 子どもの心身医学的診療(含リエゾン)の標準化に関する研究』との共同事業によって「専門医向けガイドライン」を作成しました。すでに学会機関誌や学会ウエブサイト(会員専用サイト)に掲載しています。

■改訂版のポイント

改訂版では初版と比較して大きな変更はありません。基本的な診断の手順や治療方法などはほとんど同じです。しかし、多くの専門医の意見をとり入れてより使いやすくなるように改訂しています。

(1)サブタイプ(神経調節性失神)の名称変更について 
神経調節性失神(Neurally-mediated syncope: NMS)というサブタイプがあります。起立中、突然に血圧が低下し失神や失神しそうになるタイプです。NMSは元々、血管迷走神経性失神と概念は同じだったのですが、新規性のある名称だったため好んで使われるようになりました。しかし、その普及に伴って、他の失神発作、たとえば強い咳こみで誘発されるような反射性失神(咳誘発性失神など)と混同して使われるようになりました。これは神経調節性失神と病態が異なり治療法も異なるため、明確に概念を表すために日本失神研究会や日本循環器学会では、NMSを血管迷走神経性失神と元の名称に変更しました。本学会もこれに合わせて名称変更しました

(2)診断アルゴリズムの一部改訂について 

  • a) 初版の診断アルゴリズムでは、「旧OD診断基準」に照らし合わせて判定する作業がありました。「旧OD診断基準」は大国らが昭和40年代に作成し、症状を大症状と小症状に分類し、その組み合わせで診断するというやや煩雑な方法でした。当時は統計学が普及しておらず、小児科医が経験的に判断して作成しました。つまり科学的根拠がなかったので当時から批判もありましたが、20世紀には汎用されていました。それから半世紀が経過した2012年、田中らがOD診断項目を統計学の科学的手法によって診断項目を再評価しました。その結果、 旧OD診断項目の大症状、小症状にこだわらず症状11項目のうち、3項目以上認めれば、新起立試験を行って判定する方法が最も信頼性が高い、という結論に達しました[*]。改訂版ではその診断方法を採用しました。 診断手順はかなり簡略化されました。
  • b) ヘッドアップティルト試験(HUT)の追加記載:失神、あるいは失神様症状で救急外来、循環器内科、神経内科、小児科などを受診する患者はじつは非常に多く、適切な診断法の普及が求められていました。失神診断の検査法としてHUTと能動的起立試験(AS)があります。これまでは両検査に対して医療保険における診療報酬が認められていませんでした。しかし、これに対して長年、多くの医学系学会から要望があり、平成25年度からHUTの保険診療ができるようになりました。小児の失神、あるいは前失神状態の約8割がODと関連すると報告されており、有症状の子どもではHUTの実施が望まれます。 改訂版ODガイドラインではHUTを重要な検査の一つとして位置づけました。
  • c) 能動的起立試験(Active Standing test,シェロング起立試験ともいう)を実施した際の診断の注意の喚起:ODガイドラインでは、新起立試験によって4つのサブタイプを決定することが重要です。もし医療機関に非侵襲的連続血圧測定装置(Finometerなど)があれば診断力が上がるのですが、それがない場合、起立直後性低血圧(INOH)を正確に診断するためには検査者が新起立試験に熟練する必要があります。 改訂版ODガイドラインではINOHの診断感度を上げる検査のコツや、INOHを見逃さないように注意喚起を行っています。
  • d) 体位性頻脈症候群(POTS)の判定基準に関する説明の追記;現在のPOTSの判定基準は、「起立中に血圧低下を伴わず、著しい心拍増加を認める。起立3分以後心拍数≧ 115/分または、心拍数増加≧ 35/分」とされています。この場合、起立時に測定した心拍数が一度でも115以上であればPOTSと診断してよいのか、つねに115以上でないとPOTSと診断できないのか、という質問が寄せられていました。正確には起立中の全心拍数の平均値を測定し、年齢ごとの基準から判定するのですが[注]、それでは非常に煩雑になること、また起立時の心拍増加は季節や体調によって異なること、などの理由から、この基準が絶対的ではありません。そこでおおむねこの基準値に従い、 「計測値が判定の境界域にある場合、「POTS疑い」として治療を行うこと」としました。

(3)治療法の名称変更について 
治療的組み合わせの第1段階である「説明•説得療法」の名称を「疾病教育」と変更しました。「説得」という言葉は、説き伏せる、というイメージがあります。ODの治療では、子ども自身の治療意欲を育て、自主性を育むことを非常に重視していますので、教育的観点から名称変更しました。


[注] (医師向け)
立後3-7分の心拍増加(平均±sd)は、女子:15.365 ± 8.076(bpm)、男子:20.383 ± 7.601(bpm)。2sd以上を異常と設定しているので、女子では31.4以上は異常、男子では35.5以上で異常と判定する。男女を平均すれば、33以上の心拍増加が、異常と判定できる。さらに小学生では31以上、高校生では29以上が異常と判定できる。しかしながら学年別や男女別の基準はかなり煩雑なことから、判定基準は厳しめに35に設定した経緯がある。したがって、起立後の心拍数増加の平均が35以上という厳密な基準を使わずに担当医の裁量で判定することが望ましい。


[*] 田中英高、梶浦貢、山口仁、竹中義人、藤田之彦。小児起立性調節障害のスクリーニングチェックリストに関する検討。日本小児心身医学会雑誌2012;21:166-171

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